【会見レポート】勅使川原三郎版『羅生門』

 ダンサー、振付家、演出家(美術・照明・衣裳・音楽構成も手がける)としてKARASを主宰し、東京・荻窪にあるKARASの主要な活動の場であるカラス・アパラタスで新作を発表し続けている勅使川原三郎。愛知県芸術劇場芸術監督も務める勅使川原が7月15日、同劇場で8月に上演する『羅生門』について会見を行った(共同制作となる東京芸術劇場でも上演)。登壇者は、勅使川原と佐東利穂子そして、ハンブルク・バレエ団のアレクサンドル・リアブコ。ここでは、勅使川原の語る作品感、創作意図に焦点を絞ってレポートする。(文:寺司正彦)

『羅生門』記者会見より
(C)Naoshi Hatori

 2020年、愛知県芸術劇場芸術監督に就任した勅使川原は当初、2021年度に海外で世界初演したのちに日本でそれを披露しようと考えていたそうだ。しかし、コロナ禍のなかそれが難しくなり、日本で世界初演、そののち海外でも再演する、という方針転換を余儀なくされた。

 音楽を伴った、音楽に誘われる作品だけでなく、文学作品も多くあつかってきた勅使川原が今回材にとったのは、芥川龍之介の短編小説『羅生門』だ。

「映画版『羅生門』もありますが、今回はあくまでも芥川の小説から発想したものです。映画と小説は明らかに違う。小説を基にしたダンス作品を創るのはとても意義があることだと思っています」
 こう話す勅使川原は、ダンスを創作するうえでその題材を選ぶとき「その時々で自らが実感する、生き生きとしたものを舞台で表現できるもの」を重要視するとも語る。

 『羅生門』には神話性がある。と語る勅使川原は、今回の創作・上演、そして作品について感じることを、次のように述べた。

「現代のわれわれが読み返して、その時代の人間が生き生きとしたものを感じ取れる。それが神話であり、その本質だと思う。  
 『羅生門』はある種、いまの時代の人々が共感できる、いまの時代に通じるものです。死人と生きている人間が区別なく放置されているような悲惨な場所で、下人がそこで見聞きしたものから自分だけは落ちぶれたくないと思いながらも、自分のなかにある欲望や、生きていくためにはどうすればよいかという狭間で葛藤する。
 非日常的でありながら、時代の難しさ、混乱、困難、恐怖、動揺がそこにはある。きれいなことだけでなく、醜いことも起こったであろう。まさに、いまの私たちの時代そのものだと思う。しかし、単に社会批判をする、社会性を問うものではなく、人間は常に戦い、争い、欺し、欺され、そして、そこから這い上がろうとする。そこにこそ、生き生きとした生を必要としているということが本質としてあるような気がします。
 危機が強いときほど、明快な強い判断が求められる、というのが本質だと思う。いまの時代も、あるいは将来にわたっても人間が抱えなければならない混乱、困難、あるいは生と死。人間がなんとか生きながらえようと他人を陥れるような、人間が持っている本質。しかし、決してそれは必ずしも目を背けるような醜いものだけではなく、見えない大事なこと、美しいことさえも反映させられるのではないか。危機のなか、その狭い狭間のなかにこそ映し出される、そこにしか見えないものを展望することとは何だろうか?それをテーマにダンスを創作したかったんです。
 こうした題材をダンスにするのは難しい。けれども、音楽を伴った作品や、ありふれた日常を描く作品でもやはりダンスにするのは難しい。私は、いまほんとうに危機を実感しています。実感することができれば、そこから何かを創り出すことができるのではないか。人間が持っている罪の意識、危機、それによって判断しなければならない状況がいまなのではないか。それが自分に突きつけられたと感じ、一歩前に出て何かを話そう、表現しようと思うことこそが芸術家には必要だと感じました。
 障壁があって危機があれば、前に出て、よりそこに接近してその本質に向かうのがダンサー、私なのです。そういう意味では困難な状況というのは私にとってはとても面白い。平穏ですべてがうまくいっているように見えて、じつはその陰に何かが隠されているかもしれない。だとすれば私はその隠された何かに対する興味がより強く、安定ではない傾斜しているようなところに希望を持ちます。
 希望というのは、私にとってはダンスであり、あるいは絶望というのが希望かもしれないし、何かを産み出す時には痛みがあるかもしれない。
 ダンスは動くことです。それは視野を変えることであり、いろいろな営みのなかにダンスの基礎になるものはいっぱいあるけれども、この作品からどう読みとるかが大事ですね。発信者として、表現者として責任がある。だから私は照明も衣裳も手がけます。それは、そこに触れて感じることが必要だから。だからこそ、高度なテクニックを持ったスタッフと一緒に仕事することが楽しい。創作は困難を伴うが、決してそこから目を背けずに、よい仕事をしようと思っています」

 公演は、共同制作の東京芸術劇場で世界初演ののち、愛知県芸術劇場で上演される。

【公演情報】
■勅使川原三郎版『羅生門』
朽ちて崩れた門 陽は落ち 死体が重なる 鬼が笑う

原作:芥川龍之介『羅生門』より
演出・構成・振付・照明・美術・音楽構成:勅使川原三郎
アーティスティックコラボレーター:佐東利穂子
勅使川原三郎、佐東利穂子、アレクサンドル・リアブコ(ハンブルク・バレエ団)、
宮田まゆみ(笙演奏)

2021年8月6日 (金) ~8月8日 (日)
東京芸術劇場 プレイハウス
https://www.geigeki.jp/performance/theater280/

2021年8月11日(水)19:00
愛知県芸術劇場 大ホール
https://www-stage.aac.pref.aichi.jp/event/detail/000527.html