ゲルネ&ケントリッジ『冬の旅』〜KYOTO EXPERIMENT2019

 バリトン歌手で現代最高の歌手のひとりであるマティアス・ゲルネが、秋の京都でシューベルトの連作歌曲集『冬の旅』を歌う。というだけでもクラシック音楽界の話題をさらう出来事だが、共演はザルツブルク音楽祭芸術監督でもあるピアニストのマルクス・ヒンターホイザー。近年はオペラの演出もてがけ、昨年、新国立劇場で上演されたモーツァルトのオペラ《魔笛》が話題となった南アフリカの美術家ウィリアム・ケントリッジとのコラボレーションとくれば、もう大事件である。

 『冬の旅』は、恋に破れた孤独な若者が、たった一つの救いである「死」を求めながらもさすらいの旅を続ける様子を描いた作品。ヴィルヘルム・ミュラーの24の詩に基づき、シューベルトが死の前年に書いた。シューベルトの連作歌曲集のなかでも随一の人気を誇る傑作だが、そこにケントリッジによる「映像」が新たに加わり、われわれはいま、音楽、テキスト、映像の三位一体を体験する。

 木炭とパステルで描いたドローイングを少しずつ描き直しその変化を1コマ毎に撮影、紙の切り抜きや映像のコラージュでアニメーション化するケントリッジの映像は、直接的にはミュラーの詩とは連動しない。けれども、この歌曲集に通底する「社会的な疎外感」は、アパルトヘイト(人種隔離政策)時代の南アフリカを生きたケントリッジ自身の体験とも重なる。現代が直面してきた普遍的な問題を絶えず問い続けるケントリッジの強い主張がこめられた映像は、ゲルネの歌、ヒンターホイザーのピアノと相まって、『冬の旅』に多義的な視点を生み出す。

 この三者による『冬の旅』は、エクス=アン=プロヴァンス音楽祭のプロダクションとして2014年、共同制作のウィーン芸術週間で初演。以来、16年までの2年間にわたり、アムステルダム、ニューヨーク、モスクワ、パリおよびドイツ各地で展開された。今年、ヒンターホイザーがザルツブルク音楽祭の芸術監督に就任後初めて同音楽祭でも披露された。
 そして京都である。
 2009年、京都国立近代美術館でのケントリッジの大規模な個展、それを受けての京都賞受賞(10年)、京都国際現代芸術祭(15年)など、ケントリッジと縁の深い京都での上演。たった一夜限り、およそ800人という限られた聴衆だけが体験できる、貴重な機会だ。

Festival d’Aix-en-Provence 2014 ©P.Berger/artcomart.

Festival d’Aix-en-Provence 2014 ©P.Berger/artcomart.

Festival d’Aix-en-Provence 2014 ©P.Berger/artcomart.


KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭2019
■ウィリアム・ケントリッジ『冬の旅』

2019年10月18日19:00京都芸術劇場 春秋座(京都造形芸術大学内)

一般 前売¥5,000/当日¥5,500
ユース・学生 前売 ¥3,000/当日 ¥3,500
高校生以下 前売・当日共に¥1,000
ペア ¥9,500(前売のみ)

https://kyoto-ex.jp/2019/